弊社はワイヤーカット加工において数多くの実績を持っています。

導電性のある素材であれば、どんなものでも高精度で加工することができるワイヤーカット加工ですが「底のある加工ができない」「加工方向が限定される」などいくつか難点もあるため、実際の加工には正しい技術・ノウハウが必要です。

ワイヤーカット加工とは

ワイヤーカット加工とは放電加工の一種で、真鍮などのワイヤー線に電流を流し、金属材料を溶融させながら糸のこぎりのように切断する加工方法です。

正式には「ワイヤー放電加工」と呼ばれ、導電性があればどんなに硬い素材でも加工できるという特徴を持っています。切削加工と違い、放電するワイヤーは加工物に対して非接触で溶融切断を行うため、厚みのある素材から箔材のような薄い素材まで、負荷をかけることなく高精度に加工することができます。

ワイヤーカット加工は、純水で満たされた加工槽の中に素材を浸した状態で行います。ワイヤーに電流を流すことで加工物との間に爆発放電を繰り返し発生させ、その熱で加工物を溶かしながら切断します。発生する熱の温度は7000℃にも達しますが、高温による変形を防ぐために加工槽には冷却装置が備え付けられていて、一定温度に保つことができる仕組みになっています。

ワイヤーカット加工のメリット・デメリット

ワイヤーカット加工のメリット

・強度や厚さに関係なく加工ができる
ワイヤーカット加工は放電によって加工物を切断する「非接触加工」のため、導電性のある素材であれば、強度や厚さに関係なく加工することができます。

・高精度
ワイヤーカット加工の精度は0.005mm単位で、研削盤と比較しても遜色のないほどの高精度を誇ります。

・複雑形状の加工が可能
直線的な切断だけでなく、円弧状の切断、直線と円弧を組み合わせた切断など、複雑形状の加工が可能です。また、上下のワイヤーを別々に動作させることによりテーパー形状も加工することができます。

・バリが発生しない
ワイヤーカット加工は加工時にバリが生じないため、バリを取り除く時間や専用の周辺機器などが不要です。

・特殊工具が不要
切削加工などで使用される、消耗が激しい工具類とは違い、ワイヤーカット加工では比較的安価な真鍮製のワイヤーを使用することができるため、コスト削減につながります。

・素材への負担が少ない
ワイヤーカット加工は非接触加工のため、素材への負荷がほとんどなく、熱による変形も微小です。

ワイヤーカット加工のデメリット

・加工速度が遅い
ワイヤーカット加工は加工物を少しずつ溶かしながら切断するため、切削加工に比べると速度は遅く、大量生産には向いていません。

・導電性のある素材に限られる
導電性のある素材は強度や厚さに関係なく加工できますが、導電性のない素材は加工することができません。

・底のある加工や水平方向の加工はできない
ワイヤーカット加工は垂直に張られたワイヤーを使用して糸のこぎりのように加工するため、底のある加工や水平方向の加工はできません。

ワイヤーカット加工に向いているもの

ワイヤーカット加工は「導電性があればどんな素材でも加工が可能」「0.005mm単位の高精度加工が可能」と言った特徴から、難削材と呼ばれる切削困難な素材の加工に向いています。

導電性のある素材であれば、どんなに硬いものでも、粘り気があるものでも容易に加工することができるため、超精密プレス型など、硬い金属材料を高精度で加工する製品に最適です。

またシムプレートや薄板バネなど、極薄素材の加工においても、非接触加工のため素材に圧力をかけることなく、高精度で切断することができます。

このようにワイヤーカット加工は、切削困難な素材を高い精度で加工することが要求される製品に向いています。一方で加工速度は遅く、大量生産には不向きなため、量産前の試作品などに使用されることが多い加工です。

レーザーカット加工との比較

非接触加工であるワイヤーカット加工ですが、同じく非接触加工である「レーザーカット加工」と共通点も多く、よく似ています。

ここではワイヤーカット加工とレーザーカット加工の特徴について比較していきますが、大きく分けると以下の4つの違いがあります。

・加工速度
ワイヤーカット加工は毎分で数mm程度の加工しかできませんが、レーザーカット加工は毎分700〜10,000mmの高速加工が可能です。従って、大量生産にはレーザーカット加工のほうが向いていると言えます。

・加工精度
レーザーカット加工が0.05mm単位までの加工であることに対し、ワイヤーカット加工は0.005mm単位での加工が可能であり、ワイヤーカット加工のほうが約10倍の加工精度を誇ります。

・加工対象物
ワイヤーカット加工の加工物は導電性のある素材に限られる一方で、レーザーカット加工は金属以外にも木材、樹脂などあらゆる素材が加工可能です。しかし厚さについてはワイヤーカット加工は最大で300mm程度の素材であっても加工可能ですが、レーザー加工では最大でも30mm程度の素材しか加工することができません。

・価格
ワイヤーカット加工機の価格が約1,000万円〜5,000万円であることに対し、レーザー加工機は約2,000万円〜1億円と非常に高価です。

以上の点から、どちらの加工方法で加工を行うか、状況に応じて適切な選択が必要です。比較的、素材の厚みがなく、精度も要求されない量産部品については、レーザーカット加工が向いています。一方で、素材の厚みがあり高精度での加工が必要な試作部品などは、ワイヤーカット加工を用いると良いでしょう。